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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)988号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人井本台吉の上告趣意について。

原審が法律により公判廷において取調ぶべき証拠の適法な取調べをしていないという論旨は、所論の検証調書添付図面及び押収の新聞紙が旧刑訴四一〇条一三号にいわゆる「法律ニ依リ公判ニ於テ取調フヘキ証拠」にあたると前提しての立論である。しかし、同条号にいわゆる「取調フヘキ証拠」とは旧刑訴三四二条に定めるもののように、特に、法律を以て公判廷において取調ぶべきことを規定されている証拠を指すものであることは当裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)二四五号同二三年六月九日大法廷判決参照)。

ところが記録を閲するに、所論の図面は本件の起訴前検事の強制処分の請求に基ずき名古屋地方裁判所判事高橋嘉平が昭和二二年七月一三日に検証した顛末を明らかにするために作成した「検証並押収調書」の末尾に添付した図面であり、所論の新聞紙は同日右検証の現場で同判事が押収したものであることは、いずれも右検証並押収調書の記載によって認めることができる。そして右検証並押収調書はその本件記録に編綴されている順序、その受付印等に徴し、第一審の判決言渡しの後でしかも被告人の控訴申立後ではあるが、第一審裁判所に提出され従って記録と共に原審に送付されたものであることを推認しえられるのである。されば所論の図面及び新聞紙は訴訟関係人から原審へ提出した証拠物証拠書類ということはできないから、旧刑訴三四二条によって原審公廷においてこれを取調べなければならぬものにはあたらない。そしてその他に所論の図面、新聞紙等を原審公廷で取調ぶべきことを定めた法令の規定は存しない。されば所論はその前提においてあやまっているのであるからとるをえない。しかのみならず、所論の図面が原審公廷で適法に証拠調のなされたのであることは昭和二五年二月一三日の原審第一回公判調書に明記されているところであるし、所論図面に押捺されている契印が地方裁判所書記山口兼之の職印であり、記録に打たれた丁数の字形が原審のと相違していることから、所論図面が原審に送付されたときには展示ができるように記録に編綴されていたものであったのをその後において本件記録の整備の際にあやまって現状のように表面をうちに二つ折にして編綴したものであると推断することができるのであるから、所論のように右図面が現在展示不可能の状態で記録に編綴されているからといって右図面について証拠調が適法になされていないものということはできない。又所論新聞紙は検事の請求によってその附着物の種類性質等の鑑定資料に使用されたものであって、原審公判当時はすでに現存しないものであることは記録(一二一丁、一一八丁、一二五丁、一二七丁)上明らかなところであるから、原審はこれが証拠調をなすに由なきものといわなければならぬ。論旨いずれもその理由がない。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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